「腹を据える」「腹を割って話す」など、日本には「腹」を特別に意識した言葉が多いですが、伝統的な武術や健康法でも「腹」が重視されてきました。
専門家らの間では、腹に力が入っている状態とは、上半身の力が抜けて、下腹部の圧力が外気圧よりも高い状態のことを指すと考えられています。この状態であれば、体の軸がしっかりして、簡単に揺らぎにくくなります。さらに、お腹から下半身にかけても冷えにくくなり、健康度もアップすると考えられてきました。
この状態をつくるのに役立つのが、丹田(たんでん)を意識した呼吸です。丹田は下腹部の中心にあり、生命力の源とされています。古武術で「腹」といえば丹田を意味することが多く、いわゆる丹田呼吸というのは、この「丹田」を呼吸によって作る方法だといえます。丹田呼吸を実践すると、息を深く吐くことができるようになるため、腹部の血液が循環し、全身の血行が良くなるとされます。
日本人が昔から行っていた除草、耕作などの農作業は、筋力や素早い動きは必要ありませんが、長時間身をかがめて、ゆっくりと単調な仕事を続けることが要求されます。そのため、ふだんの生活を通して、下腹部を充実させ、根気を持続させる呼吸が自然に身についている人が多かったといいます。
ところが、生活様式が変わり、日ごろの動作が変化するにつれ、腹を中心とした意識や呼吸も失われてしまいました。さらに、過剰な情報とストレスにさらされている現代人は、どうしても意識が上半身に向かいがちで、丹田そのものを意識しにくくなっています。
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